入社3年目から9年目までの20代の社員3名に茅葺き職人を目指すきっかけや仕事の魅力などを語りあってもらいました。
(写真左から)
山本剛史 兵庫県出身 入社3年目
湯田詔奎 熊本県出身 入社9年目
茂原教蔵 長崎県出身 入社5年目
美山茅葺(株)に入社したきっかけはを教えてください。
湯田:高校生の頃、当時通っていた工業高校の近くに青井阿蘇神社という茅葺きの神社があり、それを授業で扱ったことをきっかけに茅葺きというものに興味を持ちはじめました。そんな中、高校在学中に伊勢神宮と出雲大社の式年遷宮が重なる珍しい年がありました。伊勢神宮の式年遷宮は20年に一度行われており、茅葺職人になって式年遷宮に参加したいという想いが強くなり、弟子入りを志願しました。
茂原:僕は大学を中退しているのですが、その時に改めて自分の将来と向き合い、「暮らしとともに一生続けられる仕事がしたい。」と考えるようになりました。そして、将来自分がどんな家に住みたいかと考えた時に「茅葺き屋根の家」に行きつき、ネットで色々調べて美山茅葺でお世話になることになりました。
山本:大学2年生の頃、住宅建築という雑誌で特集が組まれており、それを見て美山茅葺を初めて知りました。そこで茅葺きについて興味を持ち、会社に連絡してインターンに行かせてもらいました。そのご縁もあり、美山茅葺に入社することになりました。
入社して感じた、美山茅葺(株)の魅力はどのようなところですか?
山本:会社が伝統的建造物群保存地区に指定されている美山町北村を拠点としていることは大きいと思います。現在暮らしている寮も集落内にあり、葺替え工事の時だけでなく、普段の生活から茅葺き民家を身近に感じることができます。そうした環境の中で屋根葺きの仕事ができることは魅力的だと感じています。
茂原:僕も同じく寮に暮らしているのですが、全く同感です。集落での日役(地域の環境整備や伝統行事の準備・参加などの活動)に参加して、集落の皆さんと交流することも楽しいですし、それが良い屋根にしよう、という仕事のモチベーションにも繋がっています。
湯田:会社として扱っている物件が全国各地にあり、そのエリアが広いことも魅力の一つだと思います。地域の環境が違えば、材料も葺き方も変わってきます。そうした多種多様な屋根に携われることが嬉しいですし、各地の屋根を葺くことで自分の知見も広がり、職人としても成長できると思っています。2,3ヶ月〜半年位の出張が多く、短期間で色々な土地を転々としながら仕事することも私は面白いと感じています。
出張が多いようですが、出張先での共同生活はどうですか?
山本:初めは共同生活に緊張することもありましたが、今では先輩方と親睦を深める良い機会だと思うようになってきました。現場では厳しい先輩方も宿に帰ってからは優しく接してくれ、その気持ちの切り替えも勉強になりますし、現場での厳しい指導も自分の成長を願ってのことだと思えるようになりました。出張を機により深い信頼関係を築くことができるようになったと思います。
茂原:何かわからないことを先輩に質問するにしても、現場では先輩方の手を止めてしまうことになります。その場で確認しなければならないことはもちろん確認するのですが、急ぎでないことに関しては、帰宅後の食事中など現場終わりに聞くことで、焦らずに質問できるのも良いですね。その流れで、翌日の段取りの確認などもでき、質の高いコミュニケーションが取れている気がします。
皆さんが感じる茅葺の仕事の醍醐味はなんですか?
山本:僕もまだ屋根に上がりはじめて間もないので、どの現場も目の前のことに必死になっていますね。屋根に上がってから屋根葺きの技術の奥深さを改めて感じています。
湯田:一つ挙げるとしたら、やはり刈り込みですかね。特に角や軒といったパッと目に留まる部分は、綺麗なラインを出すのはもちろん、自分のイメージ通りに仕上げられているか、そういったところにこだわるのが面白いところですね。
茂原:僕は現場入りしてすぐの序盤が好きです。出張だと尚更ですが、その土地の環境・雰囲気が新鮮に感じられ、その感覚が好きです。それに加え、屋根を解体して葺き始める0から1になる瞬間も好きです。
職人の世界は「見て覚えろ」と印象が強いのですが、実際に働いていてどう感じますか?
湯田:全然そんなことはなく、むしろ、きちんと言葉にして指導してくれます。
見習いの時は、先輩方から色んな意見を言われて混乱することもありましたが、どれか一つが正解という訳ではなく、それぞれの意見を受け止めて、自分なりに解釈することが必要だと思います。そこで変に頑固になっても、現場の雰囲気が悪くなるだけで良いことは何もないので、謙虚な姿勢で意見を聞くことは大切ですね。
茂原:人それぞれに手の違いみたいなものもありますし、重要視しているポイントも少しずつ違っていて、そこにどう柔軟に対応していくかは、僕も心がけています。自分を常にニュートラルな状態にしておくようなイメージです。
体力的にも大変な仕事だと思いますが、モチベーションを保つ秘訣のようなものはありますか?
湯田:僕の場合は現場が終わった時の達成感ですかね。僕らが撤収してから足場解体される現場もあるのですが、そういった現場でもなるべく足場が撤去された後に仕上げた屋根を見にいくようにしています。特に自分がはじめて角を担当したり、現場を持った現場は印象深いですね。
山本:初めての作業や工程では、一度教わっただけでは分からないこともあります。しかし、現場で経験を積んでいく中で、ふと、先輩が言っていたことが急に理解できる瞬間があり、その時の嬉しさが、続けていくうえでのモチベーションになっています。
茂原:会社が所属している(一社)日本茅葺き文化協会で研修やフォーラムがあるのですが、そういった場で他の事業所の若い職人さん達と交流することで、同世代で頑張っている人が日本全国にいるんだというのがモチベーションというか心強いなと感じます。出張で他の事業所の現場と近くになるような時には、休日に会いに行ったりもしています。
今後の目標や展望を教えてください。
湯田:ゆくゆくは地元のある九州で独立したいと考えています。そのために現場の段取りだけでなく、お金のことや経営についても会長や社長に相談しながら勉強をしています。
茂原:僕も将来は独立したいと考えていますが、まだ現場を切り盛りできるレベルではないので、まずは現場を任せてもらえるように頑張っていこうと思います。
山本:今は屋根葺きの技術を学んでいるのですが、それを屋根だけで終わらせず、他の生活にも活かしていきたいです。元々茅葺は農村の循環の営みの一部だったと思うので、そうしたことを実践できるような暮らしをしたいと考えています。
最後に、これから茅葺職人を目指す人にメッセージをお願いします。
全員:職人というと個人で黙々と仕事しているイメージかもしれませんが、茅葺は一人でできることは限られています。
一緒に楽しく茅葺きがしたい人、大歓迎です!